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名工大新聞部提供記事(H27.1.26ー4)


分子科学究奨励森野基金を受賞

  ─光で生きる微生物型ロドプシン─

                            記:森井 伸一(都市社会工学科1年)

 

 神取研究室の井上圭一助教が、平成26年度分子科学研究奨励森野基金の研究助成の受給者に選ばれた。森野基金は分子科学という名前の生みの親である故・森野米三東京大学名誉教授の拠出により設立され、分子科学分野で将来の成果が見込まれる若手研究者について、これまでの業績をもとに、毎年2 〜3名程度を対象に研究助成を行うもので、賞としての側面を強く持つ。今回助成の対象となった井上助教の研究題目は「先端的分光法によるロドプシンタンパク質の光誘起機能発現メカニズムの解明」だ。この決定に際しては彼の大学院時代からの長年にわたる、光受容膜タンパク質であるロドプシンの分子的な動作機構解明についての研究が大きな評価を受けた。
 井上助教が主たる研究対象とする微生物型のロドプシンは光のエネルギーを使って、イオンの輸送や、細胞内シグナル伝達、遺伝子発現制御などを行う膜タンパク質だ。ロドプシンというタンパク質は人間の眼の中にもあるが、微生物型ロドプシンはDNA配列において人間のロドプシンと異なる。しかし、構造においてはよく似ているため同じ名前が使われている。我々のロドプシンとほぼ同じ構造にも関わらず、微生物型ロドプシンを持つ微生物はロドプシンによって細胞内外で様々なイオンをやり取りすることで、ATPの生成に使用して活動する。このような微生物型ロドプシンの研究の歴史は、最初のバクテリオロドプシンの発見以降40年以上にわたるが、どのようにしてこれほどまでに多様な機能が達成されるのか、そのメカニズムはまだなお数多くの不明な点が残されている。それに対して、井上助教はレーザー分光を中心とした、数々の先端的な分光法を適用することで、H+ポンプやCl-、ポンプ、光センサー型など10種類以上のロドプシンについて反応ダイナミクスを調べることにより、複雑なたんぱく質のどの部分が機能発現に重要かを明らかにしてきた。また昨年は所属する研究グループにおいて、世界に先駆けて光でナトリウムイオン(Na+)を輸送するロドプシンについてその存在を明らかにすると同時に、輸送メカニズムについても多くの知見を報告した。H+化し、正電荷を帯びたレチナールを発色団として持つロドプシンでは、これまでNa+を輸送する分子は存在しないと考えられてきたことから、まさにこの発見は常識を覆すものだ。またこれまでの成果は光受容タンパク質の基礎的研究的な意義だけでなく、近年世界的に注目されている、神経の光操作技術であるオプトジェネティクスへの応用においても重要な知見を与えると思われる。
 名工大の学生に対しての助言として井上助教は、「自分は基礎的な研究をしていますが、基礎学問は応用・開発をする上で大切です。大学生のうちに基礎をしっかり学んでおくことは将来に役立ちます。」と語ってくれた。