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公設試としての名古屋市工業研究所の取り組み


■著者:名古屋市工業研究所 平野幸治(D53)

 

1.はじめに
 地方公設試験研究機関(公設試)は、都道府県、市等の地方自治体が、地域の産業振興を目的として設置する試験研究機関です。名古屋市工業研究所もその一つであり、工業技術に関する研究および指導を行い、中小企業の生産技術の向上を図るために名古屋市が設置しました(写真1)。ここでは、公設試の現状や取り組みについて、当所を例としてご紹介致します。

 

写真1.研究所外観

写真1.研究所外観

 

2.公設試とは
 公設試には、鉱工業系、農林水産系、環境衛生系など多くの機関が存在します。当所のような工業系の公設試の歴史は1900年頃まで遡り、織物、陶磁器といった伝統産業や地場産業の振興を目的に設立が始まりました。その後、高度成長期に入り、重化学工業へと産業がシフトするのにあわせ、産業の担い手である中小企業の技術課題の解決が役割として大きくなってきました。さらに、技術課題が高度化して研究機能の強化が求められる一方、その実用化も重視されるなど、公設試を取り巻く環境は次第に複雑
になってきています。昨今、自治体の財政が厳しくなり、公設試は設備更新や職員の確保などの課題を抱えながらも、地域産業の発展に向けその役割を果たしているところです。
 設置数は組織の再編等もあり明確な数はわかりませんが、全国公立鉱工業試験研究機関長協議会には67機関(平成26年度)が登録されています。政令指定都市では、名古屋市の他に、大阪市、京都市、広島市、横浜市が公設試を設置しています。

 

 

3.名古屋市工業研究所の現状と取り組み
3.1 沿革と現状

名古屋地域は和時計の技術を応用したからくり人形づくりをルーツに産業発展し、現在では国内有数のものづくり地域となっています。
 名古屋市工業研究所は、名古屋の工業力の底上げ機運の高まりのもと、昭和10年にその設立が市会で議決された後、昭和12年に、名古屋市工業指導所として設立され、今年で78年を迎えます。昭和17年に現在の名称に変更されましたが、設立以来、現在地(熱田区六番三丁目4-41)に居を構え、多数の企業の方々とともに、地域のものづくりの発展に向けて歩んでまいりました。なお、初代所長には名古屋工業大学の前身である名古屋高等工業学校の松良正一教授が就任されており、これも本会との何かのご縁ではないかと思っています。
 運営体制は、管理部門の総務課、支援総括室と、研究部門であるシステム技術部、材料技術部に属する7研究室と、大学等の研究機関との共同研究を行うプロジェクト推進室からなります(図1)。その組織のもと、研究員79名を含む93名の職員が機械・金属、電気・電子、化学・材料等の分野を対象として、技術相談・指導、依頼試験・分析、受託研究などの技術支援、技術者を育成する研修、技術情報を提供する講演会などを実施しています。

 

図1.組織体制

図1.組織体制

 

3.2 中小企業への技術支援
 工業技術に関することであればどなたでもご利用いただけます。「製品が壊れた原因を解明したい」、「異物が何か知りたい」など、年間約20,000件(約2,500事業所)の技術相談を受けています。技術相談は当所が技術ニーズを知る機会にもなる重要な出会いの場です。一方向にならないように、当所研究員が企業の現場を訪問し、課題解決を図る「出向きます」技術相談も行っています。
 相談内容によっては、機器を用いた試験、分析、観察などを実施し、課題解決に対応いたします。依頼件数は近年増加する傾向にあり、その要因として、製品や材料の信頼性評価の重視や、研究開発意欲の高まりがあるのではないかと推察しています。
 また、新技術、新製品の開発を目指す「受託研究」を企業から受託し、その開発を支援しています。さらに、企業が外部資金を獲得して研究開発のスピードアップを図れるよう、国等の公募事業への応募支援や、採択後の共同研究にも取り組んでいます。
 図2に、平成26年度の技術支援の実績を示します。ピラミッドの上部に行くほど、当所と企業の連携が深くなることを意味します。相談や依頼試験のような一過性の支援だけでなく、受託研究、提案公募型研究のような継続的な支援にも力を注ぐことによって、「受注型企業」から「提案型企業」への転換を支援します。
 工業技術に関する最新の知識・専門技術の習得を目指す、設計、高分子材料、化学分析等10コースの技術者研修を、講義だけでなく実習も組み入れ、少人数の受講生で数か月に渡って実施しています。また、企業の要望に応じた内容で技術者を受け入れ、研究員が直接指導する「個別研修」も実施しており、これからのものづくりを担う技術者の育成を行っています。

 

図2.技術支援の実績

図2.技術支援の実績

 

3.3 業界との連携
 当地域にはものづくりの基盤を担う多数の中小企業があり、これらの業界団体、組合(鍍金、溶接、金型、塗装など)と定期的に意見交換する場を設けています。協働事業として、業界共通の技術課題解決に取り組む共同研究や専門技術を有する技術者の育成を目指す研修を実施しています。また、地域の業界振興を図るため設立された中部生産加工技術振興会をはじめとする7団体の運営に協力するなど、基盤技術を担う業界団体、組合との連携を図りながら事業を進めています。

 

 

3.4 研究開発と応用事例
 名古屋市が産業振興ビジョンで定めた集中的振興技術分野のうち、機能性・軽量部素材、環境対応技術、CAE、信頼性技術、ICTの5分野について研究開発を行っています。単なる基礎研究ではなく、企業への技術支援を円滑に進められるテーマの設定を心がけ、地域ニーズに即した課題を指定した研究と、大学等との先端技術に関する共同研究を進めています。これらの研究成果は学会等で公表するとともに、知財として確保するよう進めています。
 当所の代表的な取り組み事例を紹介します。近年、3次元デジタル技術の製造業への普及が急速に進んでいます。当所では以前より解析ソフト、ワークステーションを整備し、解析依頼に対応するCAEに取り組んできましたが、最近では造形機、X線CTなどを導入して、試作造形や形状確認ができるようになっています。さらに、保有する多数の試験、分析機器を用いて、シミュレーションに必要な材料物性値の測定や造形品の性能評価も可能であり、これらをまとめて総合的な試作支援として実施しています。図3はCAEの活用例です。 国は大学・公設試に企業の技術開発を支える開放機器を整備することにより、地域の戦略分野の産業振興を推進し、新産業の創出を支援しています。導入機器の効果的な利活用を進めるため、公設試は地域内だけではなく、広域連携も図りながら事業を進めています。当所にも、平成26年度には光学特性評価システムが導入され(図4)、LED照明や電球などの光源、および光学部品・材料の光学特性を評価できるようになりました。本評価システムのほかにも、多数の試験分析機器を保有していますので、皆様にご利用いただければ幸いです。

 

図3.CAEの活用例

図3.CAEの活用例

 

図4.光学特性評価システム

図4.光学特性評価システム

 

4.おわりに
 公設試である名古屋市工業研究所の取り組みについて紹介させていただきました。今後も、地域の産業振興に向け、ものづくり企業の皆様の身近な良き技術パートナーとして業務に取り組んで参ります。名古屋工業会をはじめとする皆様からのご指導、ご鞭撻を賜りますようお願い致します。

 

 

 

【平野幸治氏の略歴】———————————————————–
1978年 名古屋工業大学工業化学科卒業
1979年 名古屋市工業研究所入所
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 本稿は、平成27年6月20日、名古屋工業大学2号館0211教室で開催された平成27年度緑会総会において、学術講演として行われた講演を「ごきそ」掲載用にまとめて頂いたものです。